2024/08/03
キャリア形成とお金の関係について、あまり論じられることのない2つの領域だが、実は相互に影響を及ぼすことがある。これまで多くの方のキャリア形成を支援してきたが、上手く作用した事例もあれば、残念なことも見てきた。
先に結論を述べると以下の6つについて、順を追って説明していく。
➡お金を稼ぐだけでは不十分
➡目先の年収より生涯所得
➡すべてのビジネスマンは貯蓄をすべきである
➡どれくらい貯蓄をすれば良いか?
➡最も習得に時間を要するお金のスキル
➡貯蓄よりも大切なもの
お金を稼ぐだけでは不十分
まず最初に申し上げたいのは、お金に関しては以下の3つのスキルがある。
①お金を増やすスキル
②お金を減らさないスキル
③お金を使うスキル
一番目のお金を増やすスキルは、稼ぐスキルと増やすスキルに大別できる。お金を稼ぐスキルとは、お金以外のもの、最も多いパターンは労働をお金に換えるスキルである。一方で、お金を増やすスキルとは、お金を用いて、さらにお金を増やすスキル、一般的に資産運用と呼ばれるものだ。
多くの人は、キャリアという単語は稼ぐスキルと強い相関関係があり、ここにばかり着眼点を持っている。強いスキルがあるのは間違いなく、それを否定するつもりはないが、長期的な視点に基づきキャリア形成しようと思えば、それだけでは不十分だというのが今回もっとも主張したい点だ。
目先の年収よりも生涯所得
稼ぐことばかり考えている人は、年収を主体に考えがちだが、本当に大切なのは生涯所得だ。
今回は割愛するが、私たちは人生100年時代と向き合わないといけない。労働は80歳までするのが一般的になり、約60年の労働寿命の中では、大きなキャリア転換は避けられないと思っておいたほうが良い。
それは、想像を超える産業の革命かもしれないし、親の介護かもしれないし、自身の健康に関する問題かもしれないし、積極的なリスキリングかもしれないし、単に今の仕事に飽きることかもしれない。
いずれにしても、私たちは「想定外のシナリオ」と付き合いながら、自身のキャリアを形成していく必要がある。
それは中長期的な資産運用に似たもので、あくまで中長期的な視点に立ったインデックスファンドに投資をしているようなものだ。反対に、目先の年収で物事を判断するのは、今日明日の株価を気にする短期投資のような視点で、まったく別の判断軸のもとで成り立っている。
決して短期投資が悪いという意味ではなく、中長期で取り組まなければならないことを短期的視点でやるのは賢くないという意味である。人生100年時代の到来とは、要するにほとんどすべてのビジネスマンに中長期の投資を求めているようなものだ。
すべてのビジネスマンは貯蓄をすべきである
上記の通り、あなたのビジネスライフは長期戦になることが確定している。そして、そのなかで「想定外のシナリオ」が発生するであろうことも、ほぼ確定している。
ゆえに、すべてのビジネスマンは貯蓄をすべきである。
これは単純に「親の介護に備えて貯金をしておけ」というような単純なものではない。
僕が最も強く訴えたいのは「絶好の投資チャンスを逃さないためにも貯蓄をしておくべきだ」ということだ。貯蓄とは、余裕であり、リスク選択の痛みを和らげてくれる鎮痛剤のようなものだ。
貯蓄があることでリスク許容度が増し、リスク許容度が増すということは、機会の選択が増すということだ。
あなたに訪れる「絶好の投資チャンス」とは、年収ダウンするかもしれないが是非とも挑戦したいヘッドハンティングの誘いかもしれないし、兼ねてから趣味の延長線上だったことが一気に市場が拡張し、起業を検討することかもしれない。
もしかしたら最初は「絶好の投資チャンス」には見えなかった些細な機会が、貯蓄があり、挑戦を選択したことで、あとで振り返ると「結果的には絶好の投資チャンスだった」と振り返ることもあるかもしれない。
そういうことで、すべてのビジネスマンは貯蓄をすべきである。
「貯蓄をしても欲しいものなんて特にない」と思う人もいるかもしれないが、欲しいと思ったときには手遅れなのだ。
冒頭にお話しした僕が多数見てきた「残念なこと」の大半は、転職における魅力的な機会を、目先の年収ダウンで断念せざるを得ないケースだ。
逆に「年収100万円ダウンは痛いですけど、3年くらいなら貯蓄で賄える範囲なので、とりあえず1年だけ挑戦してみて、それで成果出せなければその時考えます。むしろいま挑戦しないことの方がリスクに思えるので」なんて好事例も何度かありました。
どれくらい貯蓄をすれば良いか?
それでは、どれくらい貯蓄があれば良いのか?
50万円?、100万円?、300万円?
これに関しては、答えは無い。
あればあるだけリスク許容度が高まるので、多いにこしたことは無いが、ひとつ大切なことは貯蓄で大切な指数は金額ではなく「生活費の何か月分か?」など、リスクを許容する期間である。
例えば、100万円貯蓄があっても月間生活費が50万円であれば、リスク許容期間は2カ月ということになる。月間生活費が20万円であればリスク許容期間は5カ月となる。
この差は大きい。
何が言いたいかというと、貯蓄額を増やすことに加えて、生活費を下げておくことが、とても効果的になるのである。仮に東京の一人暮らし28歳だとして、年収500万円だった場合、おそらく手取りが400万円くらいになる。
一カ月あたり33万円の手取りだと貯蓄の差は大きい。
「まったくお金が足りない」と言っている人もいるだろうし、毎月10万円貯蓄にまわしている人もいるだろう。「毎月10万円!?」と思う人もいるかもしれないが、月給25万円(手取り20万円くらい)でも一人暮らししている人は多数いるので、そんなに難しいことではない。
僕自身も20代後半の時期は、手取り20万円で専業主婦の妻と、生まれたばかりの子供と3人で暮らしていた時期もある。ランチを外食で摂るなんて余裕はなく、毎日自分でお弁当(というか餌w)を持参して出社していたが、その習慣は今でも続けている。
もっと脱帽の話をするなら、技能実習で来日しているインドネシアの方などは、手取り16万円で、毎月10万円の仕送りを母国の家族にしていたそうだ。
住宅費が会社負担してもらえるなどの補助はあるとしても、毎月6万円で食費、通信費、遊興費を捻出しながら、空き時間には日本語の勉強をしてキャリアアップを目論んでいるというのだ。
本当に脱帽モノだ。
最も習得に時間を要するお金のスキル
上述の例は極論かもしれないが、最も習得が難しいスキルは「お金を使うスキル」である。分かりやすく言えば、節約のスキルと呼んだ方がわかりやすいかもしれない。
これは多くの大富豪も同じようなことを言っているので、僕ごときが言っても説得力はないかもしれないが、私たちは驚くほど無駄なお金を使っている。
「お金を使うスキル」の極意は、「100円の貨幣で、101円の価値のものを購入する」ということだ。極論、コンビニに「100円硬貨と1円硬貨」のセットが100円で販売していたら買いまくれということだ。まあ、現実にそういうことは無いだろうけどw
価格と価値は別物である。
価格は皆に平等だが、価値は人によって違う。この辺が「お金を使うスキル」の難しさである。
例えば、横浜流星さんと2時間食事するチケットがあったとしたら、20万円でも安いと思う人が多数いるだろう。僕であれば、1万円でもご辞退せていただくだろう。
一方で、奥田民生さんと2時間セッションできるチケットであれば、僕は20万円でも格安だと思う。もちろん、そう思わない人も多数いるだろう。
上記は極端なわかりやすい事例だが、普段の生活の中には、もっと判断が難しい難問が存在している。頭ではわかっていても、現代人は比較の生き物なので、ついつい可視化されたモノへの誘惑に負けてしまう。
年収1000万円の35歳、貯金はゼロなんて人は世の中に数多いる。キャリア形成の観点でいえば、なんとも恥ずかしいくらいお金のスキルが欠如していると思うのだが、その人の貯金は可視化されていない。
一方で、身にまとっている衣服や、持っているカバン、財布、クレジットカードの色、は可視化されているので、ついつい見栄をはってしまう。
もし、身長や体形と同じように、保有している金融資産が可視化されていれば、もっと節約をする人が増えるのは間違いない。
「自分にとっての本当の価値」を見出すスキルは、なかなか身に付けるのが難しい。「お金を稼ぐスキル」を身に付けるより格段に難しく感じる。もしかしたら「お金を稼ぐスキル」を持っている人には特に難しいスキルなのかもしれない。
しかし、この節約スキルは、貯蓄を形成するにあたってはレバレッジが効いてくるのだ。
まず第一に、同じ収入でもお金を使うスキル(=節約スキル)が高ければ、貯蓄率は簡単にレバレッジがきく。手取り33万円として、貯蓄に振り分けられるのが1万円か5万円かは節約スキルの差であり、ここで貯蓄額が5倍差になる。
さらに、貯蓄は金額ではなく「生活費の何か月分か?」でカウントされるので、月間生活費が少なければ、レバレッジが働くことになる。
貯蓄よりも大切なもの
最後に、これだけ貯蓄が大切だと言っておきながら、貯蓄より大切なことが多数あることをつけ足しておく。
60年以上のビジネスライフを支えるためには、たしかに「絶好の投資チャンス」を逃さないためにリスク許容度(=貯蓄)があった方が良いのは間違いない。
しかし、そもそも絶好の投資チャンスが到来しなければならないし、投資したときに成功させなければ、どんなに貯蓄があっても意味が無い。
そのために必要なのは、①人間関係・信頼関係、②知識・経験である。
こうなると結局言っていることは普通じゃないかとなるのだけど、おっしゃる通りお金よりもこの2つの方が大切だと思う。
ただ、僕が一番主張したいのは、この2つをしていればコツコツ真面目に節約なんかしなくて良いという免罪符が世の中には漂っているような気がして、そういう意味であえて主張させてもらった。
そもそもこの2つに自信がないのであれば、ここまで読み進めてもらったのに申し訳ないが忘れてもらって構わない。
➡知識習得のために毎月3冊以上の書籍購読
➡情報取得は十分で周囲に一目置かれている
➡四半期ごとに自らの挑戦目標を掲げている
➡上司から挑戦を称えられている
➡社内では誠実な人間関係を構築してると認められている
➡社外にも幅広い人間関係があり
➡仕事以外での社外人間関係(ボッチ)も豊富にある
あたりが出来ている人は、おそらく収入も伸び付けているだろう。
しかし、収入に連動して、支出も増えていないか再チェックして欲しい。収入に連動して増えるべきは、支出額ではなく貯蓄額であるべきだ。
更なる挑戦ができるように、より強い財務基盤を構築して、リスク許容道を広げて、やがて来るチャンスを逃さずつかんでほしいと願います。